2014年2月8日

偽物を身につけている人は悪さをする。






偽物ブランド品を身につけると、不正をしやすくなる


偽物を持つと不正をしやすくなるなどと言われたら、多くの人は「ホントかなぁ?」と反応するはず。目次に「なぜにせものを身につけるとごまかしをしたくなるのか」と書かれていれば、読まずにはいられない。


本書では、クロエというブランドのサングラスを使って実験をしていて、使ったサングラスはすべて本物。

その本物のChloeサングラスを使って、MBAの女子学生を対象に実験を試みる。

「このサングラスは本物だ」と伝えられてサングラスをかけてもらった女子学生。
「このサングラスは偽物だ」と伝えられてサングラスをかけてもらった女子学生。
本物とも偽物とも伝えられずにサングラスをかけてもらった女子学生。

この3グループに分けて、それぞれに数字探しの課題というものをやってもらうのが実験の内容。


「数字探しって何?」と思うところだが、数字探しというのは、3.54とか4.98とか7.71のような数字がランダムにズラッと並んだ問題から、足しあわせて10になる2つの数字のペアを見つける課題のこと(詳しくは本書の24ページに書かれている)。ちなみに、問題数は全部で20問ある。

ただ、この数字探しにはちょっとした仕掛けがあって、解答チェックは自分で行い、何問正解したかも自己申告となっている。もし、実際は4問しか正解していなくても、「9問正解した」と答えても構わない。つまり、「ずる」をしようと思えば出来る状況を意図的に用意して、自分の環境によって解答者がどれほど正答数をごまかすかをチェックするのが狙い。もちろん、実際に正解した数をマジメに答えてもいい。



実験結果は?


さて、Chloeのサングラスをかけた女子学生が、その数字探しの課題に取り組むわけだけれども、本物グループ、偽物グループ、情報なしのグループ(本物か偽物かは伝えられていない人たちの集まり)で数字探しの結果にどれほどの違いが生じるか。これを実験で確かめている。

実験の結果は、以下の通り。

本物グループは、30%の人たちが実際よりも多く正答したと申告した。
偽物グループは、71%の人たちが実際よりも多く正答したと申告した。
情報なしのグループは、41%の人たちが実際よりも多く正答したと申告した。


もう一度書くが、使っているサングラスはすべて本物のChloeのサングラスで、偽物グループも本物のサングラスをかけている。



人は誰しもちょっとずつごまかす


本物グループで30%の人がずるをしたのは、数字探しの正答数が自己申告なので、数を水増ししたければ自分の判断でできる状況だから。

20問ある問題で、もし自分が4問しかできなかったら、「正解したのは11問です」とか、「正解したのは8問です」というようにごまかす人はいるんじゃないか。自己申告だから、まさにお手盛りだ。

もし、この数字探しの解答チェックを、参加者ではない第三者がチェックすれば、ごまかすことはできなくなるので、ずるはなくなる。しかし、そういう方法でチェックしてしまうと、人間がどういうときに、どれだけのずるをするかを知ることができないので、あえて自己申告で正答数を伝えるようにしているのがこの実験のポイント。



身につけているものに人の気持ちは影響される


この実験で伝えたいことは、人は身に付けるものによって行動が変わる可能性があるということ。

本物のChloeサングラスをかけている女子学生は、自分が正直者だと思っているのかもしれないし、真面目な人間だと思っているのかもしれない。だから、数字探しでずるをする人が少なかったのかもしれない。とはいえ、30%もの人がずるをした点は気になるが。

偽物を身につけていると、自分自身に対するやましさ、真面目じゃない、アウトロー、そんなイメージがその人を支配していくのかもしれない。自分は偽物のChloeのサングラスをつけているという気持ちが、数字探しで「正答数を多めに言ってもいいじゃないか」という気持ちを引き起こしている。そう考えることはできそうだ。


お金を節約して、道徳を失う


道徳という通貨を使って、偽造品の代償を払わされている。そんな指摘をされると、「偽物を使うのはヤメておこうか」という気持ちになる。

偽造品は本物よりも価格が安いし、見た目もよく似ている。ならば、「ほとんど違いがないならば、偽物でもいいじゃないか」そんな気持ちにさせられるところだけれども、オカネ以外のものを失っていると指摘されて、それでも偽物を身につけたいと思うかどうか。

オカネは目に見えるけれども、道徳は目に見えないのが厄介なところ。

ブランドの偽物バッグ、偽物腕時計、偽物財布、偽物の帽子、何か偽物を1つ身に付けると、もう1つ、もう1つと、身に付ける偽物の数が増えていく。1つの不正行為がさらなる不正行為を呼ぶように、偽物もさらなる偽物を呼ぶ効果があるのかもしれない。



安物と高価なものを比較したら


本物vs偽物だけでなく、安物vs高級品という比較でも同様な結果が起こるのかどうか。私は興味があるのだけれども、この点については本書には書かれていない。

あくまで「ずる」に関する考察が主体なので、安物と高価なものの比較はない。

おそらくだけれども、安物を身につけている人と高級品を身につけている人でも、今回の実験と似たような結果が出るんじゃないかと私は想像している。




ずる―嘘とごまかしの行動経済学