ブラック企業経営者の本音 (扶桑社新書)
ブラック企業という言葉、いつから出てきたのかはハッキリとは分からないが、今から数年前、2012年ぐらいからよく目にするようになった。
過労死だとか、自殺だとか、搾取だとか、残業代未払いだとか、そういったトラブルを起こすと企業はブラック企業と扱われるらしいが、どうも釈然としない。
どういう条件に当てはまればブラック企業なのか。この点が未だに不明で、何かイチャモンを付ければブラック企業になる。そんな感じがする。
労務管理に関連する書籍はたくさんあり、近頃ではブラック企業に関する話題も増えたためか、このテーマに関する本もチラホラと出てきている。『ブラック企業経営者の本音』もその1つ。
ご丁寧に、表紙まで黒くしているので、「ここまでイヤラシく作るかねぇ、、」と感じたが、本は売れなければ書いた意味が無いので、その点は仕方ないと思える。
まず全体に対する感想としては、読むと気分が悪くなる本だということ。なぜ気分が悪くなるかというと、ブラック企業に対して憤りを覚えるというよりも、ここまで卑屈に本を書けるセンスに対する感情が原因。
何でも良い側面とそうでない側面があるが、これでもかというほど企業の悪い側面をえぐり出し、「企業というのはこんなに酷いんだゾ」と書いているのが本書の特徴。
ブラック、ブラックとよく言われている、ワタミ、ファーストリテイリングを始め、2014年7月に起きた個人情報流出でさらに有名になったベネッセコーポレーション、他にも橋下徹氏が市長である大阪市役所、さらには楽天もブラック企業の例として挙げられている。
ワタミは飲食店だが、飲食店といっても、忙しいのはラッシュ時間帯が主であり、それ以外の時間帯は思いのほか暇になる。そのため、労働時間が10時間とか12時間となっても、「こりゃあ、シンドイな」と感じるのはせいぜい3時間から4時間程度。
10時間労働とか12時間労働と聞くと、大変だねぇと思うかもしれないが、仕事の密度は思いのほか低いもの。私はワタミで働いた経験はないが、チェーン展開する飲食店での勤務経験はあるので、どんな職場環境なのかを想像することはできる。
世間が想像しているよりも、ワタミでの仕事は過酷ではないと私は思っている。
ファーストリテイリングはユニクロを展開する会社で、「ファーストリテイリングという名前は知らないけれどもユニクロなら知ってるよ」という人も多いはず。
ユニクロもワタミと同様に、何かとイチャモンをつけられやすい企業で、ネットや雑誌、書籍でもナンダカンダと突っ込まれている。
ユニクロでの仕事は大変なのかというと、実際にお店に行って買い物をした人ならば分かるが、セール日になるとお客さんが多くなり、それ以外の日はお客さんは少ない。週末になると、金、土、日で限定価格に変わり、通常日よりもお得に買物ができる。そのため、お客さんは週末に多く、それ以外の月曜日から木曜日までは暇な日が続く。
もちろん、営業時間以外にも在庫の管理や売り場メンテもあるだろうから、お店が開いている時間帯だけで判断するわけにはいかない。とはいえ、お店で働いている人が過酷な環境で仕事をしているように見えるかというと、そうでもない。
服装で社内のヒエラルキーを分からせるために、新人の服装を制限したり、あえてカッコ悪いシャツを着させたりする点は、何とも気持ち悪い感じがした。
イタリアンレストラン チェーンで仕事をしていたとき、厨房で仕事をしている人の服装が微妙に違うのが気になったことがある。白いコック服は皆同じなのだけれども、首に巻いているタイのようなものの色が違っていた。黄色いタイの人、青いタイの人、赤いタイの人、何の意味があるのかは分からなかったが、もしかしてあれもヒエラルキーのシンボルだったのかもしれない。
私は服装でヒエラルキーを感じされられるような状況になったことはないけれども、確かに新人に対しては色々と制限がある職場は存在すると思う。くだらない文化というか慣習のように思うし、私はそういう会社は嫌いだけれども、会社の癖のようなもので治らないのだろう。
経営者が、みずから毎日、缶コーヒー1杯を従業員に手渡しする。これだけで経営者に歯向かおうという者は、ぐっと少なくなる
(本書 76ページより引用)
これはまさに「あるある事例」の1つだ。缶コーヒーだけでなく、アイスクリームでもいいし、お餅でもいい。さらには、従業員を焼肉パーティーに招待するとか、営業成績が良かったチームを社長の別荘に招待する方法もある。
いかにも経営者が従業員のことを気にかけていると行動で示すことで、従業員に会社への忠誠心を強くさせる。この手法を用いて会社を運営している社長は多くいる。
もちろん、従業員を手懐けようとか、歯向かわないようにしようとか、そういう下衆な考えではなく、本心で色々とやっている人もいる。しかし、中には悪い気持ちで缶コーヒーを渡す社長もいる。
高校生の頃、とある居酒屋で働いていたとき、仕事終わりに店の店主がコンビニでアイスクリームを買ってきて配ってくれていたことがあった。ちなみに、仕事終わりの時間は午前0時30分ごろ。
高校生が午前0時30分まで働いている職場。これは労働基準法に違反している職場なのだけれども、アイスクリームで法律違反の状況を黙認させていたのかもしれないと思うと、複雑な気持ちになる。
会社と社員、そして社員間のネットリとした関係になると、厄介なことも起こる。家族的な関係、アットホームな職場、キレイな言葉を選べばそういう職場なのかもしれない。しかし、親しい間柄であればあるほど相手に対する要求も高くなる。
この本の例でも、毎日缶コーヒーを1つ配ることで、給与の遅配も頼めるようになると書かれている。「毎日、社長は缶コーヒーをくれる。いい社長だ」そう思わせて、社長は給与を遅配する。コーヒーを配る前に、まずは給与を配るのが先だろう。
社長のことを「オヤジさん」、「親方」、「ダンナ」、と呼んでいる職場は、個人的にアブナイ会社だと思っている。親しみやすい感じで接触してきて、ここぞというときに無茶苦茶な要求を突きつけてくる。ヘタをすれば連帯保証人にすらされかねない勢いだ。
労務管理は法律どおりにキチッと、そして会社と社員の関係はドライに。そういう職場が会社としては低コストで、社員にとっても働きやすく気分が楽なのだと改めて思わされる本だった。
ブラック企業経営者の本音 (扶桑社新書)